福井塾

合格に至る確かな歩みへと導く

(2)B君

東大工学部(理Ⅰ)志望。1浪生。
A君とはまったくの正反対といったタイプの生徒。
数学・物理が抜群にできる。自分の力で考えるのが好きで、センター試験よりもむしろ2次の記述試験を得意とする。
性格もA君とは正反対で、人からのアドバイスをそのまま何も考えずに受け入れるということは決してしない。そのアドバイスが自分にとって適切かどうかは必ず自分で判断して決める。
B君が最も苦手とするのは、センター英語、それも語彙力や文法力を試す穴埋め小問題です。
「センター英語の得点源はもっぱら長文読解で、やはりそれだけでは十分な得点とはならず高3の受験の時もセンター英語の穴埋め小問題で失敗」したとB君は自ら分析しています。
志望校合格にはセンター英語の得点をアップしなければいけないことはB君自身よく分かっているのです。
予備校の三者面談でのことです。
センター英語の穴埋め小問題への対策なら、それに対応した問題集をB君は既に持っているというので、「その1冊を繰り返し行って徹底的に頭にたたき込めばいいだろう」とアドバイスしました。
優秀なB君ならその問題集を消化するのはたやすいことに思えましたが、彼の表情はさえません。
「そうすればいいのは分っているけれど、多分できないと思う」と彼は言うのです。
「分かっているのにできないとはどういうことか」と私は詰め寄りましたが、B君は単調な問題を消化し暗記していくという作業に対して私の想像以上の嫌悪感と反発を感じていたのです。
そうした勉強をすることが、たとえ志望校合格に必要であると分かっていても、それが無意味に思われそれ故耐えがたい苦痛を感じるようなのです。
私と彼とのやりとりを傍で聞かれていた父親が苦笑しながら言われました。
「この子が英語を覚えるのを嫌がるのは年季が入っているんです。中1の1番最初のテスト、それはクラス誰もがほとんど満点を取るというあのテストです、その簡単なテストでもこの子1人だけ全然点が取れなかった。ちょっと努力して暗記してしまえば誰でも満点取れるのに、この子にはそれができなかった、しなかった」父親も、B君が今さらセンター英語の小問対策問題集をコツコツやるとは思っていないようです。
B君の暗記に対する嫌悪感と反発は相当なものです。
B君が言うには、「浪人してからセンター英語の小問対策問題集をやってはみたものの、その無意味さに耐えがたい苦痛を感じてしまって、ついつい数学や物理の記述問題を解くという楽しみに走ってしまう」らしいのです。
英語で暗記することがそこまで嫌いならとても英語の長文問題など解けないと思うのですが、B君が言うには、
「長文問題なら大丈夫、センター英語は長文で得点を稼いでいる。2次の英語もなんとかなる」とやけに自信満々なのです。
英語の暗記を苦手とする生徒は多いのですが、B君ほど英語の暗記に対する嫌悪感と反発を感じる生徒がいるとは驚きでした。B君の記憶力が他の生徒に比べて劣っているとは思えませんが、英語の暗記に対する嫌悪感と反発を彼は中1の初めに既にいかんなく発揮していたのです。
英語が苦手な生徒の多くは、長文問題、長文読解を苦手だと言います。それでは長文読解以外は大丈夫なのかと言えば、長文読解に必要な語彙力・文法力がやはり身に付いていません。
英語の語彙・文法の学習をおろそかにしてきたB君が長文問題、それも2次の長文読解にも自信満々なのは理解しがたいことでした。
後に分かったことですが、実はB君は密かに第1志望校を、センター試験や2次試験で英語の配点が少なく2次の数学・物理の配点が高い東工大へと変更していたのです。英語の配点の少ない東工大であれば、得意とする数学・物理の記述問題でなんとかカバーできると目論んでいたようです。既にセンター英語の小問対策問題集をやりぬく気持などは失せていたのです。
「2次の英語もなんとかなる」といった彼の自信ある言葉の意味は、2次試験の英語で確実に得点できるといった十分な英語力が身に付いているということの表明ではなくて、得意科目でカバーしきれないほどの悪い点は取らない自信はあるという、他の得意科目の得点に頼らざるを得ないなんとも不十分な英語力の表明だったのです。
英語を苦手とする浪人生の多くは中学生のときから英語につまづいています。つまり英語の苦手にもかなりの年季がはいっているのです。
こうした場合、浪人してから英語の実力をつけるには数学以上に時間がかかります。
中学の数学が苦手であっても高1から新たな気持ちで数学の勉強を始めればよいのです。中学の数学を勉強し直す必要はありません。
英語の場合には、高1から新たな気持ちで始めようとしても、中学の英語が身についていない場合には高校の英語についていけなくてますます英語が苦手になってしまうのです。
「中学の時から英語の実力が止まったままです」と打ち明ける浪人生は実に多いのです。
B君の場合も、中1のときから英語で学ぶべきことを学び、覚えるべきことを覚えておくべきでした。そうすれば彼が後々までセンター英語の勉強程度で苦労せずに済んだのです。B君にとって英語を覚えることが苦痛であったとしても、しかるべき学年の時にしかるべき学習をしておかなかったために英語の暗記に対する嫌悪感や反発がこれほどまでに大きくなってしまったのです。

彼の特異ともいえる「英語の暗記に対する嫌悪感や反発」は、彼の「自ら考えて解くことが何よりも好き」といった特性と密接に関係しているように思いますが、彼が中1のとき、嫌がる英語の暗記を強いたとしても「自ら考えて解くことが何よりも好き」という彼のすばらしい特性をつぶすことはないと私は断言します。そんなことでつぶれるほど人間の脳も人間の個性も軟ではないのです。そして英語の暗記を強いられることは、浪人してからよりも中1のときのほうが彼にとってはるかに苦痛や負担が少なかったことは間違いないのです。彼が早いうちにそうした苦労を乗り越えておけば、他の得意科目に頼る必要のない十分な英文読解力を必ず身に付けていたことも、間違いないと私は思うのです。