福井塾

合格に至る確かな歩みへと導く

(3)C君

都立上位校志望。中3生。
数学・英語・理科ともによくできる。
学生の頃、東京の塾で数学講師をしていたときの話です。
C君を含めた数人の生徒達(中3生)と雑談をしていたときのことです。話題が漫画のことになったとき、C君が突然こう言い出したのです。
「先生、僕は漫画が読めないのです」
周りの生徒も私もC君が冗談で言っているのかと思い思わず笑ってしまったのですが、C君を見ると、真剣で深刻な表情をしています。C君は言葉を続けます。
「セリフが少ない漫画なら何とか読めるけど、セリフが多い漫画はまったく読めません。ドラマや映画を見てもよく分りません。」
ドラマや映画を見てみんなが笑ったり泣いたりしていても、C君にはそれがどうしてなのかよく分らないというのです。ドラマや映画のストーリについていけなくて何が表現されているのか理解できない、ということらしいのです。
セリフの多い漫画も同様です、セリフが多いと漫画のストーリについていけなくなるというのです。
「周りのみんなが楽しんでいる漫画や映画を僕だけは楽しむことができない」という状態でしたが、高校受験を控えたC君としてはそれ以上に深刻な悩みがあったのです。
C君は数学・英語・理科ともによくできますが、国語だけはさっぱりできないのです。いくら勉強しても国語の得点だけが全然上がらないというのがC君の最大の悩みでした。
真面目なC君は塾での国語の授業を他の教科以上に真剣に取り組んでいるのですが、一向にできるようにならないのです。
その場にいた他の生徒の中にも国語の苦手な生徒はいましたが、C君の場合は苦手な症状が突出しています。文章がまったく読めない、何を書いているのかさっぱり分らないというのです。問題文を数行読むこともできない、読んでも全然理解できないというのです。授業で説明を受けても、問題文がどうしてそのように理解できるのかさっぱり分らないということです。
私はC君に、これまでどんな本を読んだことがあるのか聞いてみました。
「1冊の本も読んだことがありません」と、はにかみながらも苦しそうな言葉が返ってきました。
C君の主要な国語の得点源は、漢字の読み書きと古文・漢文問題です。現代文の読解問題はまったく期待できず運任せの状態です。
古文・漢文は中学生になってから意識的に学習するので、現代文の問題に比べて勉強しただけ得点も取れるようになるようです。現代文の内容は、小説、評論文いずれも内容がまったく理解できないので、ひたすら漢字の読み書きで得点を稼ぐという作戦です。
当時の私は漫画や映画が理解できない生徒がいるのに驚いたのですが、他の教科がよくできるのに国語(現代文)のみ突出してできないという浪人生が少なからずいることを、その後知ることになります。
こうした生徒に話を聞いてみて分ったのですが、どの生徒にも共通するのは、「1冊の本も読んだことがない」ということでした。